オレが通っていた塾のセンセーは
山一證券を辞めて開業したオジサンである。
山一證券とは数千億円もの粉飾決算がバレ、
倒産した大手証券会社だ。
山一では汚い仕事ばかりやらされていたという。
顧客を騙し続けるのが辛かった。
それでも……
「バレるなバカ!」
上司からは毎日毎日、呼び出されて説教された。
塾の経営は脱サラ組に人気である。
元手が安く、在庫も抱えなくていいし、
教育関連は不況にも強い。
近所の信用と口コミを得られれば
かなり手堅い現金商売になる。
ビミョーな学歴
センセーはクソマジメで不器用な人間だった。
もともと福岡出身だが、中学受験のために上京し、
高校も進学校でシコシコ勉強してきたらしい。
にもかかわらず、MARCHの文系……
ブランド力のある有名大学であるものの、
そこまでしたら最低Bランクでないと……
あんまり地頭の良いタイプではないようだ。
バカ正直
オレの教室は男女が数名ずつだった。
オレとツレは、
「センセーの時はAVないから本ばっかり?」
「センセー!ボカシはどうやって外すんスか?」
「やっぱ、センセーもエロいんでしょ?」
みたいな質問ばかりしていた。
オレたちのアホな質問攻めを真に受けて、
センセーが「ワタクシはスケベです!」と宣言すると……
オレたちはゲラゲラ笑っていたのに
女子全員は目を丸くして「え……?」みたいな顔で
本気でドン引きしていたのが不思議だった。
居酒屋になってた
その塾は中学までだったので
高校に入ってからは近づくこともなかった。
ある日、たまたま近くを通って覗いてみたら……
赤いちょうちんがブラ下がっていた。
オカンによると、
「近所のオジサン相手におでん出してるよ」
「居酒屋みたいになってるね」
駐車場だった場所は小さな畑になっており、
ジャガイモetc.が植えられていた。
雨後のタケノコ
バブルの時には学習塾がタケノコのように
ニョキニョキ生えてきた。
オレは田舎に住んでいたが、
それでも近所だけで10コくらい塾があった。
同じように喫茶店やらペンションやらも
ニョキニョキ生えていた。
今の若者がカフェやゲストハウスで
独立したがるのに近い現象である。
みんな会社員がイヤで独立開業したのだ。
景気が良かったから、開業資金も溜まりやすく、
融資も受けやすく、客も集まりやすかった。
10年後……
独立開業した店は、
10年後にはほとんど消えてなくなっていた。
ちなみに飲食店の2年生存率は50%、
10年生存率は10%と、末期癌並みである。
脱サラして独立したいと思う人は多いだろう。
しかし独立開業で一生食っていくのは、
ステージ4の末期癌から復活するくらいの
難しさがあり、運の良さも必要である。